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山口地方裁判所 昭和63年(ワ)120号 判決 1991年4月25日

原告

株式会社寺井

右代表取締役

寺井曻

右訴訟代理人弁護士

林弘

中野建

松岡隆雄

被告

垣内紘一

佐々木ツル子

垣内親

中野利光

被告(亡垣内政市承継人)

中野眞知子

垣内松子

右被告ら訴訟代理人弁護士

末永汎本

右被告垣内紘一、

同佐々木ツル子、

同垣内親、同中野利光訴訟復代理人弁護士

芹田幸子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告に対し、被告垣内紘一、同佐々木ツル子、同垣内親及び同中野利光においては、一四八五万九三七〇円、被告垣内松子においては、七四二万九六八五円、被告中野眞知子においては、二四七万六五六一円及び右各金員に対する昭和六二年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告の取引先であった株式会社オートサロングランプリ(以下「グランプリ」という。)が和議開始の申立てをして倒産したことにつき、グランプリの代表取締役であった被告垣内紘一(以下「被告紘一」という。)、取締役であった佐々木ツル子(以下「被告ツル子」という。)、同垣内親(以下「被告親」という。)、同中野利光(以下「被告利光」という。)及び監査役であった訴訟承継前の被告垣内政市(以下「政市」という。)が共謀してグランプリの貸借対照表の棚卸資産欄(以下「商品欄」という。)に虚偽の記載をし、また、被告ツル子、同親、同利光及び政市が右虚偽記載を防止・是正すべき職務上の義務履行を故意又は重大な過失によって怠ったことにより、右虚偽記載を正確なものとして信じてグランプリとの取引を開始・継続した原告に損害を与えたとして、商法二六六条の三第一項、第二項に基づき、損害賠償の請求をした事案である。

一争いのない事実

1  当事者ら

(一) 原告は、家庭日用品の卸業を主たる目的とする株式会社であるところ、グランプリに対し、昭和六〇年一二月二三日から日用雑貨品を継続的に販売した。

(二) グランプリは、昭和五一年一月三〇日に設立され、各種電気製品、自動車用品及び一般家庭用品の小売販売を主たる目的とする株式会社であるが、昭和六二年六月三〇日、不渡手形を出し、同年七月一日、山口地方裁判所に対し、和議開始の申立てを行い(同裁判所昭和六二年(コ)第一号)、昭和六三年三月二二日、右和議認可決定がなされた。

(三)(1) 被告紘一は、設立当時から現在に至るまでグランプリの代表取締役である。

(2) 被告ツル子は、昭和五五年一一月二六日から同六二年四月三〇日までグランプリの取締役であり、経理を担当していた。

(3) 被告親は、昭和五四年三月三日から同六二年四月三〇日までグランプリの取締役であった。

(4) 被告利光は、設立当時から昭和六二年四月三〇日までグランプリの取締役であった。

(5) 政市は、設立当時から昭和六一年二月二八日までグランプリの取締役、同年三月四日から現在まで同社の監査役であったが、平成元年三月二九日に死亡し、同人の妻である訴訟承継後の被告垣内松子、同人の子である被告紘一、同親及び訴訟承継後の被告中野眞知子が相続した。

2  グランプリの貸借対照表の商品欄には次のとおりの記載がなされている。

(一) 第一〇期(昭和五九年九月二一日から同六〇年九月二〇日まで)六億六一八九万四〇〇〇円

(二) 第一一期(昭和六〇年九月二一日から同六一年九月二〇日まで)一六億八二五三万円

3  原告は、グランプリの和議開始申立時において、同社に対し、売掛代金債権一六一五万一四二七円を有していたところ、グランプリの倒産により、右売掛代金債権の支払を受けることができなくなったが、その後、グランプリから和議条件の履行として一二九万二〇五七円の支払を受けたので、売掛代金債権の残額は一四八五万九三七〇円となった。

二原告の主張

1  被告紘一、同ツル子、同親、同利光及び政市は、共謀して、グランプリの貸借対照表の商品欄につき虚偽の記載をしたものであるが、原告は、右虚偽の記載を信用して、グランプリとの取引を継続した結果、前記売掛代金債権残額相当額の損害を受けた。

2  被告ツル子、同親、同利光及び政市につき、右共謀が認められなかったとしても、同人らは(ただし、政市については、第一〇期決算期に限る。)、取締役として、被告紘一が作成した決算報告書につき、右報告書の内容が真実であるか否かを調査し、右報告書を承認するかについて検討し、また、疑義があるにもかかわらず、被告紘一が取締役会を招集しなかったならば、自ら取締役会を招集するなどして、被告紘一の業務執行行為を監視すべき職務上の義務を有するにもかかわらず、これを故意又は重大な過失により怠り、その結果、原告は、右1記載の損害を受けた。

3  政市は、第一一期決算期において、グランプリの監査役として、決算書類を監査すべき職務上の義務があるにもかかわらず、これを重大な過失により怠り、その結果、原告は、右1記載の損害を受けた。

三原告の主張に対する被告らの反論

1(一)  グランプリにおいては、和議申立前に十分な実地棚卸しは行われていなかったが、第一一期決算期において、在庫商品が増加したのは、子会社を整理し、その在庫商品を引き取ったためであり、さらに、その後、在庫商品が急激に減少したのは資金繰りのためにした商品の安売りや支店売却(在庫商品を含む。)等によるものであって、ことさら意図的に決算を粉飾したものではない。

(二)  グランプリの決算は、コンピューター管理であり、かつ、税理士によって適性に実施されていたのであり、グランプリにおいて故意に在庫商品を増加させた事実はない。和議申立後の棚卸しは処分可能な価格を算定することを目的として行われたものであること等を考慮すると、貸借対照表の商品欄と実際の数値との差が仮にあるとしても、それは盗難、コンピューターへのインプットミス等による許容範囲内のものである。

2  商品の増加は財務内容に対する消極的評価につながるものであるから、貸借対照表の記載と取引の開始・継続との間に因果関係はない。

3  グランプリは、いわゆる同族会社に属する中小企業であって、被告紘一のワンマン会社であるから、被告紘一を除くその余の被告らは、決算書類の作成にはほとんど関与しておらず、また、仮に、決算書類の不正を主張したとしても、被告紘一を説得することはできなかったものである。

4  仮に、グランプリの決算書中貸借対照表の商品欄に虚偽の記載があったとしても、原告は、その数値から評価される在庫商品の過大さや商品回転率の悪化を認識すべきところ、これを怠り、右数値のみに着目してグランプリとの取引を開始・継続したことに重大な過失があり、被告らは、過失相殺を主張する。

四主たる争点

1  グランプリの第一〇期及び第一一期の決算書類中貸借対照表の商品欄に虚偽記載があったか。

2  貸借対照表の虚偽記載が認められる場合、右虚偽記載と原告がグランプリとの取引を開始・継続したこと(損害の発生)との間に相当因果関係が存在するか。

第三主たる争点に対する判断

一グランプリの設立から和議開始に至る経緯

前記争いのない事実に証拠(<省略>)を総合すると、被告紘一は、昭和四五年六月、山口県萩市において、自動車用品の販売を主たる目的とした個人営業を開始し、その後、山口葵店等四店舗の支店を開設したが、昭和五一年一月三〇日、右営業を法人組織とし、被告紘一が代表取締役となってグランプリを設立したこと、以後、グランプリの経営は、実質的に被告紘一が行ってきたこと、グランプリは、昭和五二年一二月に山口大内店の開設を始め、昭和五八年六月までに七店舗の支店を開設したが、その間、昭和五六年九月に徳山店が株式会社オートサロングランプリ徳山として、また、山口葵店がフランチャイズ店として別法人となったこと、グランプリは、昭和六一年九月二〇日、いずれも被告紘一が代表取締役であったグランプリの系列会社である株式会社オートサロングランプリ大内、同防府及び同徳山の各法人を解散してグランプリの支店としたこと、グランプリは、第八期決算期(昭和五七年九月二一日から同五八年九月二〇日まで)及び第九期決算期(昭和五八年九月二一日から同五九年九月二〇日まで)においては、売上高のほとんどを自動車用品で占めていたが、第一〇期決算期以降においては、右自動車用品の売上が減少し、家庭電化製品やその他日用雑貨用品の売上が占める割合が増加し、右商品の薄利多売による経営であったこと、グランプリは、自動車用品の売上低下、広告料の増加及び客寄せのための廉価販売等により、利益が著しく低下したため、昭和六二年六月三〇日、不渡手形を出し、同年七月一日、山口地方裁判所に対し、和議開始の申立てを行い(同裁判所昭和六二年(コ)第一号)、昭和六三年三月二二日、右和議認可決定がなされたこと、グランプリは、昭和六二年六月一一日、西宇部店、同月二〇日、岩国店、同月二九日、新南陽店をいずれも在庫商品を含めて売却したことが認められる。

二貸借対照表の商品欄の虚偽記載について

1  前記争いのない事実に証拠(<省略>)を総合すると、グランプリは、すくなくとも第一〇期及び第一一期決算期においては、商品管理につき、実地棚卸しはせず、ポスシステム(店頭販売時管理)を採用し、当日仕入れた商品の仕入金額をコンピューターに入力し、各店頭におけるレジスターとコンピューターを連結して、レジスターに打刻された売上金額から、荒利益予想額(売上金額に予め商品を中分類した荒利益率を乗じて算出されたもの)を差し引いた額を売上原価とし、当日の仕入金額から右売上原価を差し引いた額を在庫商品額としていたこと、そして、コンピューターにより算出された売上金額、仕入金額及び在庫商品額等は、毎日、大区分別営業管理日報として、また、毎週、営業管理週報としてそれぞれ報告されていたこと、右のような商品管理によると、荒利益率自体個々の商品毎に算出されたものではなく、かつ、商品によっては廉価販売したことにより、当初予定していた荒利益率を下廻ることもあり、さらに、商品の盗難、破損及び腐敗等による商品の陳旧化を把握することができないから、正確な在庫商品額を算出したものとはいえないこと、被告紘一は、行本経理事務所に委託してグランプリの決算書類を作成していたが、その際、右ポスシステムにより算出された仕入金額、売上金額及び在庫商品額等を資料として提出していたこと、その結果、グランプリの貸借対照表の商品欄には、第一〇期決算期が六億六一八九万四三八九円、第一一期決算期が一六億八二五三万〇〇〇八円と記載されていたこと、右貸借対照表によると、第一〇期決算期から第一一期決算期の間に在庫商品が大幅に増加しているのは、系列会社である株式会社オートサロングランプリ大内を含め別法人である三店舗を解散した上、グランプリに吸収合併した結果、合計五億六八八一万五四七六円の在庫商品を引き取ったことがその一因となっていること、他方、グランプリが和議開始申立てをした後である昭和六二年九月一日に在庫商品を実地棚卸ししたところ、三億二六三五万三〇〇〇円であったこと、これによると、第一一期決算期の末日から一年足らずの間において、在庫商品が大幅に減少していることとなるが、これは、①右期間において、グランプリの経営悪化による決算資金不足のため、仕入金額を下廻って商品を販売したこと、②昭和六二年六月、西宇部店を含め支店三店舗につき、その在庫商品を合計二億四五五〇万円で売却し、かつ、右売却代金額は、仕入価額を下廻って売却した商品が多くあったこと、③昭和六二年九月一日の実地棚卸しの際には、在庫商品を換価可能額で評価したこと等が原因の一部であること、しかしながら、昭和六二年九月四日付けの大区分別営業管理日報では、同日の在庫商品額が一四億一〇五三万八八九九円となっていることが認められる。

2  右の認定事実によると、昭和六二年九月一日に実地棚卸しをした在庫商品額が換価可能な金額による評価であったとしても、そのころのポスシステムによる在庫商品額とは大幅にくい違っており、このことからすると、ポスシステムによる在庫商品管理はかなり杜撰なものであって、第一〇期決算期から第一一期決算期における在庫商品額の増加あるいは第一一期決算期以降の在庫商品額の大幅な減少につき、前記認定のような要因があったにしろ、右両決算期においては、右と同様にポスシステムによる在庫商品管理が行われていたのであるから、第一〇期決算期及び第一一期決算期の貸借対照表の商品欄の商品額の記載は、実際の在庫商品額に比較して大幅に大きい金額になっており、客観的には虚偽の記載であったと認めるのが相当である。

三原告とグランプリとの取引経緯

1  前記争いのない事実に証拠(<省略>)を総合すると、原告においては、新たな顧客と取引を開始する際には、支店長あるいは出張所長が「御得意様口座申請書」を作成して、本店営業本部に提出し、右営業本部において、右新規顧客につき、原告の取引銀行を通じて銀行調査を行い、また、その取引額が一〇〇万円以上の場合については、興信所の調査をした上、営業本部長が取引の開始につき承認するかどうかを決定していたこと(ただし、月額三〇万円の取引については、支店長あるいは出張所長の責任において、取引を開始することができた。)、さらに、年間の取引額が一〇〇〇万円以上の顧客については、一年に一回、興信所による調査を行い、取引を継続するかどうか、あるいは取引の上限額をいくらにするかを判断していたこと、原告においては、グランプリとの取引を開始するに際し、昭和六〇年一二月一九日、広島出張所長から本店営業本部に対し、グランプリの「御得意様口座申請書」(<証拠>)が提出され、本店営業部において、銀行調査をした結果、グランプリの信用状態につき懸念なしとのことであったため、当時、専務取締役営業本部長であった寺井曻(以下「寺井」という。)は、昭和六一年一月九日、月額二〇〇万円、総額八〇〇万円を取引限度額として取引開始の承認をしたこと、さらに、原告は、株式会社東京商工リサーチに対し、グランプリの営業状態につき調査を依頼し、右調査報告(以下「第一回目の調査報告」という。<証拠>)を昭和六一年二月五日に受けたこと、寺井は、右第一回目の調査報告につき、従業員数、借入金額、店舗不動産が社有であるかどうか等に着目・検討した結果、グランプリにおいては、借入金額は多いものの、従業員数五五名に比し、昭和六〇年九月決算期の売上金額が約四二億円であることから、生産性の程度が高く、不動産も多く所有していることから、その経営状態を良好と判断し、その取引を継続させたこと、その際、右調査結果には、グランプリの第八期から第一〇期決算までの貸借対照表の各記載金額を比較した表が添付されていたが、寺井は、第一〇期の右貸借対照表の商品欄の金額が六億六一八九万四〇〇〇円と記載されていることについて、特に注目することもなく多いとも少ないとも意見を有しなかったこと、その後、広島出張所長から本店営業本部に対し、グランプリとの取引額を増加したい旨の「取引条件等変更申請書」(<証拠>)が提出され、寺井は、第一回目の調査報告とともに、グランプリの取引銀行である株式会社山口銀行及び同伊予銀行の調査結果を参考にした上で、昭和六一年七月七日、取引限度額を月額五〇〇万円、総額二〇〇〇万円に変更することを承認したこと、原告は、右のようにグランプリとの取引額が一〇〇〇万円以上になったことから、取引継続中の興信所による調査を行い、その調査報告(以下「第二回目の調査報告」という。<証拠>)を昭和六二年一月一二日に受けたこと、右調査報告では、その所見欄において、「在庫は前年度より一〇億円増となり棚卸回転率は一一一日(年4.8回)となっているところ、運転資金へのシワ寄せがあり在庫管理に問題が残る。」とされ、在庫商品が増加したことにつき消極の評価がなされていること、寺井は、右調査結果を検討し、グランプリの主要仕入先である株式会社ローヤルがグランプリ所有の不動産に抵当権を設定したこと及び日本債権銀行が株式会社第一勧業銀行のグランプリに対する債権一億円を肩代わりしたとされていることに着目して、これらの事象はグランプリの経営状態が悪化している前触れであると判断し、取引限度額を変更するには至らないものの、今後、グランプリとの取引については注意を要する旨広島出張所に指示したこと、右調査結果には、第一回目の調査報告と同様の方法により、第九期から第一一期決算期までの貸借対照表記載の各金額の比較表が添付されていたが、寺井は、第一〇期から第一一期決算の間において、在庫商品が大幅に増加していることについては、右調査報告にグランプリが別法人である株式会社オートサロングランプリ徳山等三店舗を吸収合併した旨記載があったため、右事情により在庫商品が増加したと考えた程度であったこと、また、右調査報告には、棚卸資産回転率が記載されており(<証拠>)、これによると、グランプリと同業種の棚卸回転率は年14.9回(二四日)であるのに対し、グランプリにおいては、第九期決算期において年8.8回(四一日)、第一〇期決算期において年6.3(五七日)、第一一期決算期において年3.3回(一一一日)と同業種と対比して悪く、かつ、グランプリ自体においても年々右回転率が低下している旨の記載があったこと、その後、グランプリは、昭和六二年六月三〇日、山口地方裁判所に和議開始の申立てをして倒産し、その結果、原告がグランプリに対して有していた一六一五万一四二七円の売掛代金債権は和議債権となったことが認められる。

2 右の認定事実によると、原告は、新規の顧客との取引を開始するに際し、また、その取引を継続するか否かにつき、銀行調査及び興信所の調査を行った上で判断しているものであるところ、グランプリとの取引を開始するに際しても、銀行調査及び第一回目の調査報告により、同会社の第八期から第一〇期決算期の間における従業員数、借入金額、生産性の程度や不動産を所有しているか否かに着目して検討した結果、グランプリの営業内容を良好と判断してグランプリとの取引開始を決定したものであり、特に第一〇期決算書中貸借対照表の商品欄記載額の多寡を判断材料として右営業内容の良否を判断したものでなく、また、昭和六一年七月七日に従前の取引限度額を増額して取引継続中に行った第二回目の調査報告においても、グランプリの主要取引先が抵当権を設定し、あるいは金融関係がグランプリの借入金の肩代わりしていること等から、同会社の経営内容が悪化に向かうおそれがあると判断したものの、第一〇期から第一一期決算期の間に在庫商品が一〇億円以上増加していることについては、系列会社の吸収合併により増加したものであると考えた程度であって、右在庫商品が増加したことをもってグランプリの経営内容が良好であり、それ故グランプリとの取引を継続すべきであると判断したものではないこと、前記二の認定のとおり、グランプリにおいては、実地棚卸しをせず、その商品管理が杜撰であったため、貸借対照表記載の商品欄記載の金額に相当する在庫商品が実際には存しなかったわけであるが、グランプリのような日用雑貨品等を薄利多売する店舗において、在庫商品が多いという事実の示唆するところは、多様の商品を揃えているという意味もなくはないが、それよりも、在庫商品の多さは、資本回収効率が低く、経営内容が悪いという判断に結び付くものであること、特に、第二回目の調査報告において、グランプリの棚卸回転率が同業種に比較して悪く、しかも年々右回転率が悪化していることも右判断を如実に表していることを総合勘案すると、原告は、グランプリの第一〇期及び第一一期の各決算書中貸借対照表の商品欄の記載がそれぞれ六億六一八九万四〇〇〇円であり、一六億八二五三万円となっていることを重視し、それ故にグランプリとの取引を開始・継続したものとは到底認め難く、そうだとすると、グランプリの決算書中貸借対照表の商品欄の虚偽記載があったことと原告がグランプリとの取引を開始し、それを継続したこととの間に相当因果関係は存在しないというほかなく、他にこれを認めるに足る証拠はない。

さらに付言するに、原告は、本件訴訟において、原告がグランプリとの取引を継続した結果、売掛残代金一四八五万九三七〇円相当の損害を被ったとしてその賠償を請求するものであるが、前記認定事実から明らかなように、原告のグランプリに対する右売掛代金が回収不能になったのは、グランプリが和議開始の申立てをして倒産したためであり、右倒産の原因は、グランプリの第一〇期及び第一一期の各決算書中貸借対照表の商品欄に虚偽記載をした故でなく、その記載とは関係のないグランプリの自動車用品の売上低下、広告料の増加及び客寄せのための廉価販売等によって手形不渡を出すに至ったことにあるのであるから、いずれにしてもグランプリの第一〇期及び第一一期の各決算書中貸借対照表の商品欄の虚偽記載と原告主張の損害の発生との間には相当因果関係は存在しないというべきである。

四以上の次第で、被告紘一を除くその余の被告らに対する取締役又は監査役の職務懈怠を理由とする予備的請求も右貸借対照表の商品欄の虚偽記載を前提とするものであるから、右職務懈怠の有無等その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官松山恒昭 裁判官橋本眞一 裁判官大西良孝は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官松山恒昭)

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